責任と権限、日常よく使う言葉だが意外と分かっていない。特に日本人は二つを
ごっちゃにしている。かつて、企業の管理者が行う「人事評価」は権限として行うのか
それとも責任として行うのか管理者研修で管理者に聞いてみた。ほぼ半々くらいであり、
回答の根拠を訊いてみたがほとんどが答えられない。そもそも責任と権限の違いが分からない。
日本の職務権限規程なるものに人事評価が挙げられているが、職務(責任)なのか権限なのか
明確でない。基本的な考え方があるので覚えておくと良い。権限はcan、責任はmust
人事評価をすることは、やらなくてはならないことなので責任、どのように評価するかは
管理者の裁量で出来ることなので権限になる。

次に覚えておくことは、責任と権限は必ずセットで考えるべきものだ。責任だけあって
権限がなければその責任を果たすことは出来ないし、権限だけあって責任がなければ
無責任な権利の乱用が生まれる。例えばこんな事例があった。

1)あるメーカーの工場長には工場利益責任があった。簡単に言えば、工場売上から工場原価を
引いたものだ。この責任は工場売渡し価格と工場原価をコントロールできて初めて果たせる。
ところが、工場原価の大部分である材料購入費は本部が決定権を握っており、本部から
指示される原価を使わざるを得ない。本部が過去から付き合いのある取引先から高い単価で
材料を購入しているので利益が出るわけがない。ところが本部から利益責任を追及され、
怒った工場長は退職してしまった。つまり、利益責任を持たされながら、
それを果たす権限が付与されていなかったのだ。

2)地方の流通業のある店舗の例である。店長は粗利(売上から仕入原価を引いたもの)責任があり
売上額と粗利で店、店長の評価がされていた。経営陣から売上、利益の拡大をやんやと責められた。
そこで店長は、これらの拡大に売場でのパート要員を増やした。確かに売上、粗利は急増したが
店全体の利益は激減した。しかし店長の評価は上がった。もうお分かりと思うが、パートの
人件費が売上増による利益増を上回っってしまったのだ。つまり、パートを雇うという権限
(費用を増やす)を与えられるのであれば、それに伴う責任を与えねばならない。
これに気がついた経営陣は、責任利益を粗利ではなく、粗利から変動人件費
(パート人件費、正社員の残業代など)を引いたものに改めた(遅まきながら)。

上記の変な現象はいずれも責任と権限が分離してしまったために生じたものである。

人事評価の話に戻そう。どのように部下を評価するかは権限として管理者に与えられている。
であれば責任はなんであろうか。部下のモチベーションを高め、能力を見極め、適材適所を
図り、適切な人材育成を行い、会社の業績向上に貢献する人材を作る、ことが人評価権と
引換に管理に負わせる責任であろう。管理者がこのような意識を持っているだろうか。
また明文化したものがあるだろうか。

繰り返しになるが、責任、権限を与える場合は、相互に整合性が取れたもになっているか
必ずチェックすることが必要である。残念ながら多くの企業でこれが出来ていない。